匂いのいいビンヅケをつけた私の曾祖母は98歳まで生きていた。たぶん階段から落ちるというアクシデントに見舞われなかったら、余裕で100年以上生きていただろう。
自分と曾祖母が元気なうちに、あと一度だけ一緒に暮らしたいと願い、それは祖母がいくつの時か忘れたが、祖母は曾祖母がいる土地へ移住した。
私が記憶している曾祖母は短髪で、髪色はものすごい色の黒だった。祖母は白髪染めをしたことがない人で、私が物心ついた時から白髪交じりの人だった。
祖母と曾祖母が再び一緒に暮らし始めて少し経った頃、買い物先で「祖母が母親」「曾祖母が娘」と取り違えられてしまったそうだ。この買い物先で間違えられた事をきっかけに、曾祖母は白髪を染めることをピタリやめた。
ものすごく豪傑で我が道をいく肝の太い曾祖母が、この時ばかりは小さく消えてしまいそうだったと母から聞いた。年若く見られたいがために染めていた自分の黒髪のせいで、娘のほうが年寄りに見られてしまった絶望は相当凄いものだったらしい。祖母は祖母で、自分のせいで母親が好んで染めていた黒髪を自分が白髪にしてしまったと悔やんでいたそうだ。
曾祖母の髪が自然な白髪になった頃、母娘の絶望と後悔は消えて去り、あちらへこちらへと楽しく出かけていた。残念ながら、祖母は曾祖母の最期に立ち会えなかったけど、そのギリギリまで母と娘として楽しくあることが出来ていた。
私の母は「とんとこちゃんのまねしちゃったー」と、ある日髪を短く切って帰ってきた。親子でおんなじ髪型にして申し訳ないと言いつつも、そこから髪形を変えることはしなかった。
私はいま母の白髪をまねしている。髪の長さはずいぶんと長くなってしまったが、母のようにきれいな白髪になりたいと奮闘している。
でもなぜか白いものは中途半端な本数で、一向に白髪と表現できるそれにはならない。同級生からは「なんで白髪なんかになりたいの?」と小ばかにされるが、それでも私は早いところ白髪になってしまいたい。
そうしたらなんだか自由を手に入れられそうな気がしていて・・
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