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私の祖母は前歯しか残っていませんでした。それも2本だけ。入れ歯は30代の頃いちど作ったようですが、私の子供の頃の記憶には、前歯だけしかない祖母の口のイメージしか残っていません。
認知症になってから残っていたその前歯も抜歯して、まったく歯がない状態で残りの人生を過ごしました。
私の母は下片方の奥歯2本がありません。下の前歯8本だけが自分の歯で、残りは差し歯と入れ歯の混合です。現在も自分で食後に3回歯を磨いて、自身の口腔管理をしています。
しかし、数本自分の歯が残っています。あとどれだけ母が自分で口腔ケアをやりこなし、数本残った自分の歯を虫歯にせずに過ごせるか…
母のこれからの口腔ケアが、私の悩みの種にひとつ加わりました。
祖母の歯
祖母は落花生が好きでした。よく落花生を食べている姿を見かけました。落花生を大きなすり鉢に入れゴリゴリとすり潰し、スプーンですくって美味しそうに食べていたのを今も覚えています。
「ばあちゃんは歯が無いからこうやって食べるのよ」と、ゴリゴリとすり鉢ですり潰される落花生を不思議そうに見る幼い私に、そう教えてくれました。
30代の頃に作った入れ歯
戦前、戦中、戦後を生き抜いた祖母。子供を一人産むたびに、1本ずつ歯が抜けていったそうです。栄養はすべて子に与え、子供の健やかな成長と引き換えに歯を失っていった祖母。
貧乏だった生活が少し遠のきだした時代のどこかで、一度入れ歯を作ったようです。上の歯の入れ歯と下の歯の入れ歯。私の母が子供の頃に「見せて」とねだって見せてもらっていたその入れ歯。
祖父がゴミと間違いして捨ててしまいました。
60代の終わりがけに、祖母は前歯だけになりました。
歯茎で咀嚼する日々
以後、祖母は歯茎で食べ物を咀嚼する毎日が続きます。落花生以外は、全部歯茎で噛んでいました。とにかくモグモグと咀嚼を続ける。噛んで噛んで、噛み続けていました。
認知症の症状がちらほら見え始めた頃、長く口の中でモグモグと噛んでいたそれがいったい何なのか分からなくなり、ペッとゴミ箱に吐き出していたのを見かけました。
20年以上、祖母は残った2本の前歯と鍛え抜いた歯茎で、食べ物を一生懸命噛んでいました。寝たきりになるその直前まで、それは続きました。
母親の歯
姉を出産して1本、私を出産して1本。私の母は、私達姉妹の出産と引き換えに、2本の歯を失いました。
それから数十年の年月が経ちました。母は「自分の歯をなるべく残すように頑張りましょう」と、その数十年の間のどこかで、歯を磨く習慣を徹底的に教えてくれる良い歯科医院とめぐり会いました。
それでも現在、自分の歯は残り8本になっています。
「とんとこ母さんの口の中はとても綺麗!」と、つい先日の救急搬送入院時に病棟の看護師さん達から褒めちぎられ、ご満悦で退院してきた86才の私の母の歯。歯石はついていない。年齢の割に歯茎は落ちていない。
一生懸命、正しい歯磨きを実践してきた賜物でしょう。
口腔扁平苔癬の母
口腔扁平苔癬を発症した母の歯磨きは大変です。口腔内に痛みがあるので、歯科治療も苦痛を伴います。歯磨き粉もしみますし、歯ブラシが患部に当たるとこれまた苦痛。
それでもできるだけ柔らかい歯ブラシと歯間ブラシ、それと「キッズ用」と表記のある歯磨き粉を使って、毎日の歯磨きを頑張っています。キッズ用歯磨き粉は、口腔扁平苔癬が出来ている母の口腔に丁度良い味らしい。
歯を磨き終えるまで30分
母の歯磨きに要する時間がこのところ長くなってきています。理由は丁寧さが増したわけではなく、年のせいです。
歯を磨くという行為が、年老いてしまった母には負担の様子。それでも以前同様、手を抜くことなく磨いています。食後、毎回30分の時間をかけて口の中を綺麗に保とうと頑張っています。
もしも母が総入れ歯だったら、この歯磨きにかける時間を休息時間にあてられるのになあと、たまに思う時があります。
ですが、歯と歯茎がしっかりしているお陰で保たれている健康もあります。口腔扁平苔癬の事もあるので「まだまだ自分で歯磨き頑張るよ」と言っている母です。
歯なしの口腔ケア
虫歯や歯周病のリスクを抱えないでいい分、そこは断然総入れ歯のほうが楽だと思います。介護する側からすれば、心配事が少なければ少ないほど気持ちに余裕ができます。
もちろん食後の口腔ケアは、歯があろうとなかろうと必ず行わなければなりません。歯を磨く必要がなくても、料理の油分や食べカスなど、口の中に残したままにしておくと誤嚥性肺炎に繋がります。
口腔スポンジやガーゼのような柔らかい布で、頬と歯茎の間を清潔にします。うがいができるようであれば、うがいをしてもらって口腔ケア終了です。
歯なしの認知症の祖母の口腔ケア
私の歯なしで認知症の祖母は、多少言葉でコミュニケーションをとれる部分が残っていたので、ギリギリの綱渡り的な感じで口腔ケアができていました。
それでも認知症の口腔ケアは大変です。
「口の中を清潔にする」「歯を磨く」「口を開けて」「うがいして」などと言った言葉は理解してくれません。それに誤嚥性肺炎の恐怖を説いたとて、それが何かわからないので震え上がる事もありません。
これ(口腔スポンジ)でゴシゴシってしてみて!
あららー、なんでアタシがやんなきゃいけないの?したいならアンタがやったらいいじゃない。
会話ができるとはいえ、お願いしてもこんな感じ。でも私がやってみせると、ばあちゃんは真似をする。やり方を見せたら真似してくれることに気が付きました。
たまに「飲んじゃった♪」と、うがいした水をそのまま飲みこんでしまう事もありましたが、口腔スポンジもうがいも私が最初にお手本を示し、それに続いて真似して「ゴシゴシ」と「うがい」をしてくれました。
有難いことに、寝たきりになる直前までその真似し合いっこは続けることができました。
歯ありの口腔ケア
8020(ハチマルニイマル)運動というものがありますよね。
いつまでもおいしいものを食べ続けるための元気な歯は、日々の手入れから。
1989年(平成元年)より厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足することができると言われています。そのため、「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との願いを込めてこの運動が始まりました。楽しく充実した食生活を送り続けるためには、妊産婦を含めて生まれてから亡くなるまでの全てのライフステージで健康な歯を保つことが大切です。ぜひ「8020」を目指してください。
<参考>厚生省「成人歯科保健対策検討会中間報告」1989年(平成元年)―抜粋―
日本歯科医師会HPより引用
「残存歯数が約20本あれば食品の咀嚼が容易であるとされており、例えば日本人の平均寿命である80歳で20本の歯を残すという、いわゆる8020運動を目標の1つとして設定するのが適切ではないかと考えられる。」
20本とはいかないまでも、自分の歯をできるだけ残して良い口腔環境を維持したいものです。
現在、体力と気力の衰えを自他ともに認める状況の母親。それでもまだ自分で歯を磨いています。今年90才になる父親も、まだ自分で歯を磨いて入れ歯を洗浄しています。
歯ありの高齢者の歯磨きは大変です。残っている自分の歯と、入れ歯になった「外すことが出来る歯」の手入れ。握力の弱くなった手と見えにくくなった目で、自分歯の汚れを落とさなくてはなりません。
以前と変わらない磨き方で頑張る人(母)
だんだんと磨き方が雑になる人(父)
手伝ってあげればいいじゃないと思われそうですが、ふたりとも「手伝い不要」と拒否します。認知症ではない両親は、まだ身の回りの事は出来るだけ自分でしたいと言うのです。
歯ありの口腔疾患を持つ母の口腔ケア
いま私の中で「これは厄介になりそうだなぁ」と思っているのが母の口腔ケアです。口の中の頬や歯茎にどう歯ブラシが当たったとしても痛みがなければよいのですが、口腔扁平苔癬を患っている母の口の中はとても繊細で、本人ですら細心の注意を払って磨いている始末。
現在、口腔内のどの辺りに注意を払わなければいけないのか、どのような磨き方を毎日実践しているのか、聞き取りしている最中です。母が自分で磨くことが出来なくなるその日まで、私はそばで見守るのみ。
大変そうでも、本人が頑張りたいという意思を遮ってまで手を貸す必要はないと思っています。
母が自分の口腔ケアをギブアップしたその時がきたら、私が頑張ってあなたの口の中を守ります(でも願わくば訪問歯科診療の力も借りたい)
viva!在宅介護の課題は増える
歯なしの在宅介護を経験し、今度は歯ありの在宅介護を目前にしている私。口腔ケアの事だけを考えると、歯なしの介護がやりやすいのかなあと思いますが、歯がある口腔内のほうが「食べ物のカス」が残りづらいように感じます。
そしてなにより、歯があるほうが「食べる意欲」が消失しにくい。使える食材の幅を狭めなくて済む。調理の手間や負担が軽減される。
祖父、祖母、父、母の「食べる」事を間近で見てきた“孫”と“娘”の双方の経験から、
たとえ口腔ケアが面倒くさかろうと歯はあったほうが良い
というその考えに納まりました。
入れ歯差し歯の混合歯であるにせよ、しっかり歯がある口で食べたいものをリクエストし、美味しそうに食べたいものを食べることが出来ている両親。年老いた歯になっている事は否めませんが、いまのところ毎日楽しく食事をしています。
これからの私の目標に
- 高齢者の歯の磨き方(介護バージョン)を習得
- 自分の歯をできるだけ残すための口腔ケアの見直し
- 訪問歯科診療とは何かを調べる
が増えましたが
「viva!在宅介護」を掲げ、楽しく汗かきベソかき突き進もうと思います。
家族の介護ってある日突然やってきます。何かのついでで結構です。いちど家族の方に口の中の事、歯の話、聞いておくとよいですよ。
救急で運ばれた時、年齢がそれ相応なら入れ歯の有無って聞かれます。虫歯がどれだけあるとか、歯茎が腫れているだとか、意外と家族の口の中ってそんなに詳しくないんですよ。
一緒に暮らしていても、口の中って意外と見えてないんです。
一緒に暮らしてなければ、なおさら見えなくなるんです。
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