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その日、たまたま仕事が休みで家にいた私。
“ピンポーン”と玄関のチャイムが鳴りました。インターフォンのカメラ映像にはランドセルを背負った女の子。
何だろう?と不思議そうに応対した私に、その女の子は言いました。
すみません、いまおばあちゃんといぬがでていきました
ピンポンしてきた見知らぬ女の子
近くの小学校の生徒かな?うちの前は帰り道の途中なのかな?
でも
すみません、いまおばあちゃんといぬがでていきました
と、なぜ知らないおうちの家のピンポンを押したのでしょう。
おもわず「はい?」と聞き返しました。そうすると、またその見知らぬ女の子が「あの、おばあちゃんといぬが・・・・」と繰り返すんです。
イマオバアチャントイヌガデテイキマシタ??
窓の外を見てみると、垣根越しに、家の前の坂道を楽しそうに下って行くおばあちゃんと犬が見えてですね・・・
げ!うちのばあちゃんと犬 Σ(゜Д゜;)!
どんどん家から遠ざかっていくそのひとりと1匹。犬はともかく、出て行ったおばあちゃんは認知症。
慌てて飛び出した私に「あっちです!あっちにいきました!」と、またも状況を教えてくれるその見知らぬ女の子。
ひとりと1匹を見失わないように、慌てて後を追った記憶しか残っていません。その子がどこまで私についてきたかも覚えていません。
こちらは気が動転してるので、気持ちに足が追い付かなくて空回り。
この小学生の女の子(小学3~4年生くらい?)が、おばあちゃんと犬が出て行った事を知らせてきた理由。もちろん今も謎のままです。
認知症の徘徊(になるのかな??)
で、坂道を下っていくばあちゃんと犬。なんか朗らかで楽しそうなんです。というか、なんで庭につながれた犬が、ばあちゃんに並走して嬉しそうにしている??
どうも、犬はばあちゃんから首輪を外されて出て行ってしまった様子。首元に何もつけてない野良犬状態になっている。
散歩に連れて行くときはリードをグイグイ引っ張って言うこと聞こうとしないのに、そんな犬が猪突猛進で走り出すことなく、祖母のそばを離れず歩幅を合わせて歩いています。
犬がびっくりして何処かへ走っていかないように様子を伺いながら、じわじわと距離を縮めるその先に見える光景。なんか認知症患者が徘徊しているようには見えないし、犬は従順に飼い主の横について歩いているように見えるんです。
何を話しかけているかわからないけど、確実に犬に話しかけながら歩いているばあちゃん。これは巷でいう認知症患者の徘徊に当たるのだろうか・・・。
祖母の言い分
祖母と犬をびっくりさせないように、まず犬を確保。まだ血の気は引いたままだけど、落ち着いたふりをして「ばあちゃーん」と声をかけてみました。
あら、とんとこちゃん♪とんとこちゃんもお散歩してるのぉ?
そうだよー(違うけど)
え?散歩??
(満面の笑顔で)今日はお天気がいいからねぇ、あたしもワンちゃん誘ってお散歩してるのよー♪
あらそういいわねぇと調子を合わせながら、行く道を軌道修正。散歩を継続しているような雰囲気で家へ誘導し、おやつを食べようと誘って何とか家の中へ入りました。
この時の私の心拍数。余裕で200とか打ってた感じですよ・・
散歩に過ぎなかったばあちゃんの徘徊(本人談)
本人の口から「散歩」という言葉が出ました。本当に「散歩」しようと家を出たのでしょうか。そこは何とも疑わしいのですが、犬と一緒に出て行ったその行動は、血の気が引いて慌てていた私の目にも、祖母の言う通り「散歩」にしか見えませんでした。
私の祖母は、話を作り上げるのがうまいです。突拍子もないことをアレコレやってくれるのですが、そのすべてにとても滑らかな理由をつけてくれるのです。話がかみ合わなくても、一瞬かみ合うような会話ができるのです。
とても天気が良くて気持ちよさそうだったから、ワンちゃんを誘って「ちょっとそこまで」お散歩しようと思ったの・・・これがばあちゃんの言い分でした。
ニュアンスを変えて2度ほど尋ねてみましたが、やっぱり祖母の言い分は「散歩」
犬の首輪を外したこと
捕獲した犬のところへ連れていき、もう一度首輪を外すように頼んでみましたが
なあに?首輪って
と、「これ(首輪)には一度も触ったことないから、なんだかわからない」という始末。質問するとわからないけど、無意識だったらできてしまう・・・これも認知症の症状のひとつなのでしょうか。
本当は、飼い主が気づいていないだけで外れてた?うーん・・それはちょっと考えにくい。少し前に犬のお水を換えに行ったとき、しっかりと首に巻かれた首輪を確認していましたから。
そしてすべて忘れる
ばあちゃん、今日のワンちゃんと一緒のお散歩楽しかった?
アタシはいままでお散歩なんか一度もしたことないよ。ワンちゃんはお散歩するの?
やはり覚えていない。というか、なかったことになっている。「忘れた」と言うでなく、そんな事実はないという。
ここで「出て行ったじゃん!犬連れて!覚えてないの?」と言い続けて、仮に犬と徘徊(脱走?)したことを思い出させた(認めさせた)としても、誰にもいいことは無いんです。
ワンちゃんは毎朝お散歩してるよ、と答えてこの話は終わり。
見知らぬ女の子のおかげで、ばあちゃんと犬を見失わずに家に連れて帰って来れたこと。それはとても幸運なことだったんだと、たまに行方知れずになった高齢者の捜索願いが町内放送で流れてくるのを耳にしたとき、この一連の騒動をたまに思い出します。
MANOMA(マノマ)「親の見守りセット」鍵を閉めていても開けられる心配が増えた
認知症になる以前、祖母も玄関からの出入りはしていたわけです。サムターンをひねって開ければ、それで閉まっている玄関のドアが開くということは脳に刷り込まれているんですよね。
サムターンをひねれば鍵が開く。たとえ認知症になっていたとしても、何十年とやってきた動作ですから。無意識の意識で開けることが出来るんです。
困ったー
「もしかしたら知らぬ間に出て行ってしまうかもしれない」という不安。少し前からありました。この部分、どうしたらいいだろうねと母と二人で悩んでおり、そんなタイミングでの徘徊(というか脱走かな)事件。
やはり「祖母が気づかない場所で手の届かない位置」に鍵をもう一つ増やさないといけない。そう結論が出て、鍵屋さんに電話しました。
鍵屋さんの提案
私たちの希望は「祖母が気づかない場所で手の届かない位置」にもう一つ鍵をつける事でした。
背の低いばあちゃんは届かないけど、そのほかの家族の手が届く位置に、ひとつ鍵を取り付けてもらうように鍵屋さんにお願いしました。
リスクが生じる「高い位置」の鍵
うちの祖母のように「認知症になっても無意識に蓄えた知恵を使って行動する」人の場合、確実に手の届かない場所に鍵を取り付けたとしても、椅子などを持ち出して開けようとしますよと、うちに来た鍵屋さんは言いました。
たぶん見つけます。見つけられたら厄介です。そうなるとつけても意味がなくなります。小さいおばあちゃんでも、椅子に乗れば届くでしょ?お部屋から玄関のたたきに椅子を下ろすとき、たぶんケガしますよ。
サムターン回して出ていくなら、たぶん確実に椅子を持ち出して高い位置のサムターンも回そうとするはず・・と、鍵屋さん。
危ないです。高い位置の鍵穴の取り付けは却下です。
鍵穴をふたつにする提案
ご家族は何人ですか?
小さなお子さんはいますか?
家の鍵は人数分ありますか?
と聞いてきた鍵屋さん。我が家は祖母のほかに3人で、小さい子はおりません。鍵もそれぞれ持っています。
じゃあ、このサムターンを鍵穴にして、外側からも内側からも鍵を使って開閉するようにしませんか?
「締め忘れると無施錠」になります。そこはデメリットです。「鍵を閉めた」という都度確認と、「必ず閉める」という意識をご家族の方が強く持たないといけませんが、サムターンがないと鍵を持っている人しか開閉できない状態が作れますよ。
それに新しい鍵つけるのってドアに穴開けるから金かかるっすよー♪
鍵をもうひとつ取り付けると考えていたのに、ドアに穴をあける作業があるんだということが欠落していた私たち。それはさておきだったとしても、鍵を開けるために椅子を持ち出す可能性があるなんてことを予想していなかった。
うちの祖母なら確実にそうする・・・高い位置の鍵(サムターン)を見つけたら、絶対に椅子を持ってくる。
この「外側も内側も鍵穴にしてしまう」という提案をしてくれた鍵屋さんに巡り合ったため、我が家の玄関の鍵はリーズナブルにバージョンアップすることができました。
閉め忘れるかもしれないという不安
サムターンを外して新しい仕様になった玄関ドアの鍵に、最初は「閉め忘れているかもしれない」という、不安と恐怖のような感情はある程度ありました。
でも「祖母が玄関から出ていくことがなくなった」という安堵感がそれ以上にでてきたので、私たち家族の気持ちの安定は格段にアップしました。
同居する家族の年齢や、出入りする時間帯の状況や回数によっては、この「外側も内側も鍵穴にしてしまう」方法は適さないかもしれません。
成人した人間しかいないから閉め忘れがないとは限りません。
幸いにも、父・母・私の三人は「内側の鍵を閉めるときには鍵を使う」が徹底されました。たまに来客があった時、皆さんびっくりして帰ってました。
祖母のイライラが始まる
あそこがカチャンってできないの😡なんで?
サムターンを替えて以後、たまに怒りながら言いに来ることがありました。玄関のドアの仕様が変わり、「勝手に出ていけない」「出してもらえない」「自分だけが鍵を開けられない」と察してしまったようです。
鍵がなんだかわかっていません。でもつまむところ(サムターン)があったことは覚えています。一難去ってまた一難。
とりあえずの徘徊は防止できましたが、内側も鍵穴仕様にしてしまったため「易怒性・被刺激性の亢進」のスイッチをONにしてしまいました。
外に出たいときはとんとこちゃんにお願いして下さい
さあ困った!「易怒性・被刺激性の亢進」のスイッチが入ってしまいました。トイレットペーパーの呪いを解いて嬉々としていた私に、違う角度から易怒性が襲ってきた!
さて今度はどうしたらよいものか・・・
ばあちゃーん!外はひとりで行かないでねー!
いかないよ!ちょっとここにたってるだけっ!😡
裸足でたたきに降り、ドアノブをガチャガチャと回しているばあちゃんに遭遇。何度か同じことがありました。その度にたしなめられるので、怒りが蓄積したようで・・・
ちゃんとここに「でないで」って書いててくれればわかるんだからっ!そんなになんかいもいわなくてもわかるんだからっ!😡😡😡
そうですか・・・ならば書きましょう!
この張り紙が効果を発揮し、玄関から外へ出られないことの怒りは静まりました。
- 外に出たいときはとんとこちゃんにお願いしてって張り紙がしてたから来たんだけど
- なんか戸のところがとんとこちゃんのところに行けっていってる
- なんか紙が貼ってあるんだけど
- これはなに?
というような段階を経て、だんだん外へ出ようとする気持ちを忘れてしまいました。認知機能低下が進んだことと、祖母の興味がほかに移ったことが理由です。
いまもピンポンの理由は謎のまま
すみません、いまおばあちゃんといぬがでていきました
なぜこの見知らぬ女の子は、楽しそうに出ていく祖母と犬を見て「知らせなきゃ!」と思ったのかは謎のまま。この子のおかげで、祖母も犬も行方知れずにならずに済みました。
どう考えても、この見知らぬ女の子がうちの祖母が認知症であることを知っているはずもなく・・・。
それからしばらく、うちの前を通って下校する小学生たちの姿を確認し続けましたが、ピンポンして祖母と犬が脱走(徘徊?)したことを教えてくれた見知らぬ女の子を見つけることはできませんでした。
うちの家の前の道は単に道草しただけで、彼女の正規の通学路ではなかったのかな・・・。
それとも私がちゃんと彼女の顔を記憶していなかったのかな・・・。
お礼も言えず、理由も聞けず、20年以上経過しました。
大きくなった見知らぬ女の子へ
あの時、祖母と犬が出て行った事を教えてくれてありがとう。あなたにきちんとお礼も言えないまま20年以上が過ぎました。
いま祖母と犬が出て行った玄関の鍵は元の通りに戻り、内側からはサムターンで開閉しています。
あなたがあの時、私の家族が出て行った事を教えてくれたおかげで、私の祖母も飼っていた犬も道迷うことなく、その命を我が家で全うすることができました。
この街で今も暮らしているのか、それとも広くて大きな世界で活躍しているのか。そのどちらであろうと、元気で楽しく過ごしていればうれしい限りです。
私の祖母と犬を助けてくれたあなたの人生に幸多からんことを願いながら、本日これにて終了します。
本当にありがとう
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