【孫のあとがき】赤とんぼ

祖母の詩

小さい頃から「ご先祖様たちがとんぼになって帰って来る」と教えられていた。それは祖母から、時に母から。

いつの頃か忘れたけれど、祖母が「ああ帰ってきたのね、おいでおいで」と、とんぼの群れに手を差し伸べていた。その手に一匹のとんぼがすいっと乗ったのを覚えている。祖母は二人の子供を亡くしている。産まれてすぐに見送った子と、成人して間もなく罹った病に打ち勝てなかった子と。その二人に向けられた深い愛情に、とんぼが応えてくれたのだろう。

そのような光景を見てしまったので、50代になった今でも、そしてこれからも一生「ご先祖さまたちはとんぼになって帰って来る」と私は思い続ける。

そのとんぼの群れに、今年から私の母が加わる。思いもよらなかった急な入院から始まった辛い数か月と続いた日々。その時間をどうする事も出来なかった娘の元へ、果たして母がすいっと現れてくれるかどうかは自信がないけれど、おかあさんとばあちゃんと、そしてご先祖さまたちとみな一緒になって帰ってきてくれるのを、ひとり待つとしよう。私は自分で家族を作らなかったから、この先誰にもとんぼの事は話せない。

今までは母と一緒に待ちわびていたとんぼの群れ。これからは独りひっそり待ち焦がれる。

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