つるばらの花

祖母の詩

私が生まれる前、祖母はつるばらを育てていた時期があったと母から聞きました。それは見事なつるばらだったそうですが、残念ながらその当時の写真はありません。

  

つるばらの花

陽が沈みかけるひととき、つるばらの花はあでやかに美しい。花びらはビロードに似て、ぬれてみえる。そんな夕暮、ふと私は母でなく妻でなく、一人ぼっちになって遠い道をみつめている。

じょじょに黒ずんでゆく山の向こうから、霧のようにひそやかに歩いてくるひとがいる。つるばらを大きな黒い布でつつんでしまう為に・・・

闇よ、ゆっくりと来ておくれ。

  

ひるはひるで一重よし、八重よし。垣根にはう眞紅のバラが好きだ。ろくろく手もかけずにいるのに、五月になると忘れずに咲いてくれる。垣根から屋根へ紅のじゅうたんを拡げたようにして。

このかいわいで一番貧乏だと自信を持って言えるような我が家が、この季節になると何と金持ちに見えることだろう。私は、遠くから近くからほれぼれとつるばらを見る。幸せな気持ちでいっぱいになる。朝と夕方、煙突から煙が立上るのは我が家だけであってもいいのだ。

  

修学旅行にあちこち走り回って五千円借金したことも、主人の背広の裏がふせだらけの事も、奨学資金が米代にかわっていまだに滞納していることも、誰も想像がつくまい。

五月の光りの中でひときわ目立って赤々ともえるように咲くつるばらを見ると心がなごむ。

貧しいから、あんまり泣きたい事がつづくから、こんなごう華なかくれ蓑をかけてくれるのかしら。

孫のあとがき

つるばらの花が毎年咲き誇っていた時代の子供の頃の母の家は、貧乏極まりない状態で毎日大変だったと聞いています。祖母がどうやってそのつるばらを手に入れたのかは不明ですが、塀を覆うまでに見事に育て上げたそのつるばらは、近所で評判のつるばらだったそうです。ですがその家を引っ越して以降、つるばらを育てることはなくなったみたいで・・・

  

私の記憶に残っている祖母の庭につるばらはありません。

祖母が手入れをしていた庭には、チューリップ、フリージア、サルビア、ペチュニア、ガーベラ、マリーゴールド、ポピー、金魚草。

記憶にいちばん残っている花はペチュニア。ナメクジを1匹ずつ箸でつまんで、一生懸命駆除をしていた祖母の背中を懐かしく思い出す花。

またもう一度、祖母の花咲く庭で遊びたい。

コメント

タイトルとURLをコピーしました