祖母が書き残した詩を紡ぐ
祖母の手仕事を思い出すように
その手から出来あがるあれこれは
孫の私にはちょいと苦手で
遠くの場所から鼻をつまんで
眺めるばかり
けれどゴロゴロと見事に整列した瓶と樽
それは羨ましくて仕方なかった
しその葉
しその葉は
畑の隅に忘れられ
言葉少なくつつましく
ほめそやされず生い立ちぬ
やがて花も見ぬままつみ取られ
もまれ、もまれて、しぼられぬ
哀れその形なけれど
ひとくれのしそ、水に放ちし魚のごと
生々と赤く拡がり沈みゆく
ゆるやかに実をば包み
優しく静かに色染めて
くれないのかぐわしき梅とはなりぬ
しそありて梅
梅ありてしそ
白きびんの中ひそやかにより添いて
しそ、くれないに美しきかな
かなしきばかり美しきかな
孫のあとがき
ばあちゃんは梅干しを作っていた。白菜漬けも作っていた。そしてらっきょうも漬けていた。
もちろん奈良漬けもたくあんも、たくさんたくさん作っていた。真っ黒いきゃらぶきも憶えている。
私は漬物類が嫌いなので、祖母の台所は苦手だった。祖母の手で漬けられた沢山の瓶や樽が所狭しと台所の隅の方に並んでいたからだ。
私は、ばあちゃんちで水を飲む事ができなかった。大好きなばあちゃんの家であっても、沢山の漬けられたものが置かれている臭い台所で水が飲めなかった。私の幼い鼻は、どうやっても漬物の臭いを吸い込むことを拒んだ。
そんな大好きなばあちゃんが漬けたものですら受け入れられなかった孫。令和の世で奮起して、たまにではあるが漬物を買っている。それはアルツハイマー型認知症で90代に突入した父のためだ。
さすがに奈良漬けやたくあんを買う勇気は湧いて出ないが、らっきょう漬けと高菜漬けは何とか買って父に食べさせた。
父は義理の母が作る漬物が大好きだった。義理の母も、義理の息子に自分が漬けたものを食べさせることに喜びを感じていた。
らっきょうを父に出した時、義母が漬けたらっきょうを憶えているかを問うてみた。アルツハイマー型認知症になった父は「そんなことあったっけ?」と答えてきた。まあ予想通りの模範解答が問うた娘に返ってきた。
らっきょうを食す父の様子を伺ってみたが、特に漬物というやつに執着はなくなっているように思えた。そこにあるから食べている。そんな感じの食べ方だった。
なら、漬物嫌いの私が無理して父のお膳に組み込むことはしなくてもよいだろう。父の残り少ない人生から漬物を奪っても、もう私はなんの罪にも問われまい。
そう思って、父の人生から漬物を消し去ることを決意した。
ばあちゃんの漬物の味はどんな味だったのだろう。もうその味をたくさん堪能した人の記憶にも残っていない漬物。
でも私の記憶には残っている。鼻をつまむほど臭かった苦手な台所の臭いと、たくさんの手作りされた愛情つまった瓶と樽。ばあちゃんの漬物は私の記憶にしっかりと漬かって残っている。



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