おかあさんへ

私の胸の内

「あんたはおとうさんと一緒にいるからずーっとどこにも遊びに行けてないねぇ・・」とポツリ言ったのよ。何日か前の夕飯時、見ていたテレビのニュースの街頭インタビュー。小学生の男の子が質問されていた場面でね。

その小学生の男の子は沖縄に行くと答えていた。

おかあさんは知っているよね。私が名所旧跡も人込みも嫌いだという事を。だから観光旅行的娯楽を好まないという事も。おとうさんはそれを知らないから、年老いた自分の世話するせいで、私の余暇が犠牲になっていると思っているみたい。

少し前から、思いもよらない話題や自分の思いを、魔球の如くぶん投げてくるようになりだしたアルツハイマー型認知症の後期高齢者。夕飯時に放たれたのは低速の球だったけれど、それはとんでもなく切ない魔球で。

私の記憶にある限り、父は自分のことはおろか娘の事をどう考えているかも語ったことがない人。いい意味で「子を育む事は母親に一任」していた父。それが「あんたはおとうさんと一緒にいるからずーっとどこにも遊びに行けてないねぇ・・」と、テレビを見ながらポツリと言うんだ。ああこの人は、91歳の今でも私の保護者として生きているんだと思い知らされた。

おかあさん、こういうのを独りで受け止めるのはちょっと切なくて辛いね。おとうさんの脳はどうなっているんだろうね。でも「ちょっと切なくて辛いね」も私だけの特権だろうなと思えるのよ。

今だけかもしれないけど、切なくも嬉しい人生のご褒美。

おとうさんね、おかあさんが天国に行った後、いろんなことを話してくれるようになりだしたよ。あれだけ寡黙な父だったのに。どうやらこれはアルツハイマー型認知症おかげみたいで、この部分だけは喜ばしいアルツハイマー型認知症効果かな。父とは歳を重ねるごとに話す事がなくなっていくんだよなと想像していたけれど、何故だか毎日話題に事欠かない。

おかあさんがいなくなってこれから先、我が家はどうなるんだろうと不安だったけど、結構笑って過ごせています。やっぱりどうなろうとも、うちは「vivia!在宅介護」だよ。

涼しくなったら、あなたと父が出会った場所へドライブに行こうと約束しています。

父が教えてくれた、父とあなたが初めて出会った場所。おかあさんから昔教えてもらった思い出話と相違ないので、父が教えてくれたその場所へ行ってこようと思います。

早く涼しくなれ。

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