遥かな山脈の尾根をこえて
この時刻
こうして帰るしか道がない
幾つもの無言の隊列が
霧のようにひつそりと
草深い小道をぬらして帰って来る
暮れなずむ海の果てから
こうして帰るしか道がない
数知れぬ嗚咽の隊列が
音もなく白い砂を踏んで
藻の香を素足に滲ませ帰って来る
母国の匂をかぎに
故郷の思い出を拾いに
ビルマ国境で眠っている弟よ
夕暮れの中を
霧になって潮になって
あなたも帰っておいで
あなたも帰っておいで
(正治さんへ)
孫のあとがき
祖母が書き残した詩の中には、世代的にどうしても避けて通ることができなかった戦争にまつわる切ない思い出と、悲しげな言葉で綴られた胸の内がいくつか記されています。
ですがその辛さを、私は祖母の口からひと言も聞いた記憶がありません。自分の家族の事を話してくれる祖母の口から出る思い出は、いつも楽しげで穏やかなものでした。
祖母の弟。正治(まさじ)といいます。遺骨はありません。その命が最後を遂げたであろうとされる地の、その場所にあった石ころが、遺骨の代わりに戻ってきたと聞きました。
そんな祖母から聞いた私のご先祖さま達の思い出も、私を最後に途絶えていきます。私は独り身ゆえ、祖母から母へ、そして私にとつないでくれた出来事を、このブログにしたため残すしか受け継いだ記憶を残すことが出来ません。
それもまた人生・・というところでしょうか。
この詩たちを残してくれた祖母の月命日がもうすぐやって来ます。今回のお供え物は何にしようかな。最近、甘いものが多かったので、今回は海苔のついたおせんべいにしようかしらね。
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