父、ある時マサトシさんの身の上を案ずる

介護日誌

 

父

ニシダさんがさあ、朝起きれなくなったんだってー♪

と、ある日私のオヤジさんが話し出した。総合事業で利用していた通所リハビリ施設に通っている時の話し。父が目標にしていたニシダさんという御年100歳になる御仁。どうしても朝寝坊が否めなくなり、施設利用を午前の部から午後の部へ変わるのだそう。

 

父

おとーさんは朝ちゃんと起きれるもんねー

 

父はニシダさんが大好きだった。リハビリから帰宅した後、よくニシダさんの話をしてくれた。そして

 

父

来年はニシダさんの歳を追い越す!!

 

と、毎回ニシダさん話を上記の言葉で締めくくっていた。父、無理だから。90歳のアナタは100歳のニシダさんに追いついて追い越すなんてできないから・・・と思いつつも、ニシダさんともかく、100歳になった父は見てみたいよなあと、心ひそかに思っていた。

 

父

で、なんでマサトシさんはひとりになるの?

 

いきなりニシダさんがマサトシさんにかわった。ニシダさん以外の人名を父の口から聞くのは初めてだ。ニシダさん話の流れで出てきたマサトシさんだし、ニシダさん話と同じトーンで継ぎ目なくなめらかに話してきたので、てっきり通っている施設のマサトシさんだろうと思い、引き続きその「マサトシさん」の話しを聞いていたら

  

父

なんで隣りの人はマサトシさんを連れて行かないの?

 

と、私に聞いてきた。私、へ?である。誰だよ隣りの人って・・施設職員かぁ?と思いながら怪訝な顔している娘に、「なんで隣りの人はひとりでどっかに行くんだ」「マサトシさんも一緒につれていけばいーじゃないか」と食い気味に言ってきた。

隣の人ってだれ?てか、その前にマサトシさんて誰だよオヤジ。

 

父

ほら、ハマダさんよ。ハマダマサトシさん!

私

ハマダマサトシさん?・・・・・ダウンタウンの⁈

父

いや、それかどうかはわかんないけど、いつもハマダマサトシさんの横にいた人は今度ひとりでどっかに行くんだろ?なんでハマダマサトシさんを置いていくんだ?一緒に連れて行ってやったらいーのに・・

 

と言ってきた。父の言うハマダマサトシさんはリハビリ仲間ではなく、明らかにダウンタウンの浜田雅功さんだ。今更ひとりにされるハマダマサトシさんが、可哀想で仕方ないと語る。

なら娘は思い切って聞くぞ。

 

私

ハマダさんの隣の人って誰よ

父

あのー・・・・・・・ヒト・・ヒト・・・・・・・・・マツ・・ヒト・・・・・

私

マツモトヒトシさんっっ⁈

父

そ!ヒトシさん!マツモトヒトシさんっ♪

 

なぜ、マツモトヒトシさんはハマダマサトシさんを一緒に連れて行かないのか?の理由がどうしても知りたいそう。困った。リアルな答えは出来ない。というか、言っても90代でアルツハイマー型認知症の父の情報処理能力のキャパ越えだわ。

 

私

諸事情

 

ひと言だけ伝えた。それは2024年4月のある日。ちょうど広末涼子が事故を起こしてワーワーとテレビで報道されていたその日。

ふーん、そうなんだー・・・と「諸事情」で納得して食事を続けた。なんでこんな売れてない人を今更テレビに出すんだと、広末涼子に毒吐きながら父はカレーライスをたいらげた。とりあえず、広末涼子も芸能人だとアルツハイマー型認知症の脳には刷り込まれているみたい。父とふたり。多少辛くとも、笑える何かは転がって来るもんだよと就寝前に母へ報告。

後日、浜ちゃんが回転ずしのCMに出ていたので「この人知ってる?」と問うてみた。

 

父

うん、あのー・・むかし芸をしていた・・・・そのひとりだけどな・・・名前はもう無理だ。

 

と返ってきた。お笑いコンビのダウンタウンのひとりだという事は、きちんと理解していたんだ父。

アルツハイマー型認知症とわかって以後、父の表現力はユーモアあふれるようになってきた。楽しめ楽しめ。その先は沼かもしれないけど、とりあえず今現時点を楽しもう。

父はまだニシダさんの事を覚えている。ニシダさんと一緒にリハビリしていた施設の名前はもう思い出せないけれど、現在もニシダさんに追いつけ追い越せで頑張っている。

そして、現在通っている施設をチェンジしてほしいと言ってきた。聞けば、どうしてもイヤな人がいるらしい。楽しく通えないと言う。ケアマネさんに事情を説明して、また新しい場所を探してもらわねば。

娘、笑える日々あれど大変でもある。

  

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