祖母の詩

祖母の詩

或る日或る時

珍しくむし暑い日だった。買物の途中、突然或る家から黒い塊が往来へ投出された。長くのびているのは猫である。ついと出てきた男は、くたくたになっている生き物を更に溝に投込んだ。まるでぼろ布でも捨てるかのように。猫は頭を上げて細い声で泣いた。黄色い
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つるばらの花

どれだけ貧乏でもその生活から花を遠ざけなかった祖母。辛い時代から認知症になるその時まで、祖母は花に囲まれ助けられて生きてきました。私も祖母が手掛けたつるばらを見てみたかったです。
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サルビアの花咲く日

何処までも青く澄んだ空の其のはるかな果を思う日まぶしいほど生々した眞赤な花に切れそうな望ノゾミをつなぐ日無心に土に帰る花びらもあり任せきった安らかな姿にふと静かなつぶやきを聞くのです  生まれてこのかた沢山な人に支えられ許して貰う事の方が多
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しその葉

しその葉は畑の隅に忘れられ言葉少なくつつましくほめそやされず生い立ちぬ   やがて花も見ぬままつみ取られもまれ、もまれて、しぼられぬ哀れその形なけれどひとくれのしそ、水に放ちし魚のごと生々と赤く拡がり沈みゆくゆるやかに実をば包み優しく静かに
祖母の詩

髪を結う

幼い頃してあげたようにあなたの長い髪をとかす今もしつとりと可愛く指にまつわる細い髪よあなたの心のように優しくゆたかにのびて手の中で匂う髪よ家と苦労種の私を支えて娘はもうすぐ二十九あなたが泣かないのにどうして私が泣けましょう昔してあげたように
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菜の花

生まれてすぐに天国へ旅立った私の叔父。それでも私はあなたの事をよく知っています。それは祖母が話してくれたから。愛しく話してくれたから。
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桃の花

朽ちかけたお寺の縁側に腰かけて大きなお握りを両手に乗せてほうばっているのは幼い日の私甘い金時豆が沢山まじっていたまるで桃色の宝物ようなお握りに思えた其の日は何の日だったのだらうかお寺の接待日なのか誰かの供養日だつたのかそれにしても人一人居な
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矢車草

祝えなかったこどもの日を忘れられなかった祖母の思いを見つけました。
祖母の詩

朝鮮のおじいさんへ

若かりし祖母の遠い日の詩。赤い表紙に守られた祖母の想い。いま孫の私の手元で開かれています。誰かに届けたかったあなたの気持ち。私が代わりに届けます。