朽ちかけたお寺の縁側に腰かけて
大きなお握りを両手に乗せて
ほうばっているのは幼い日の私
甘い金時豆が沢山まじっていた
まるで桃色の宝物ようなお握りに思えた
其の日は何の日だったのだらうか
お寺の接待日なのか
誰かの供養日だつたのか
それにしても人一人居ないのが不思議だ
寺の庭には桃の花が匂っていて
柔らかい日ざしが
ふんわりと私を包んでいた
おいしかったお握り
うす桃色のお握りとお寺の桃の花は
私の一番遠い遠い日の思い出
場末の活動館の古いフイルムのように
切れてつづいて
ぼうっとかすんでとらえようがない
ひょっとしたら
幼い頃みた夢ではなかったのかと思う
夢ではなかった
戦い敗れて引揚げた故郷に
私が生まれたという家があった
家の前にそれらしいお寺があった
戦災をまぬがれたという立派なお寺で
子供達がかくれんぼをしていた
むかし桃の木はあったのか無かったのか
あるもよし
なくもよし
聞くのはよそう
桃の花は
今も私の心の隅で
匂いつづけているのだから・・・
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