ある日、父が唐突に「あのヒバリはとても賢い鳥なんだよぉ♪」と話し始めた。その顔はとても嬉しそうで、イキイキとしていた。
オヤジどうした。なにがあった。そもそもなんで今ヒバリだよ・・と不思議に持ったけど、そんな不思議そうな顔をした娘に気づいてないご様子の父。ヒバリの話しは滑らかに続く。
ヒバリはねえ、敵から見つからないように、巣から歩いて少し離れて、そこからポーンと飛ぶんだよ。そーやってたまごを守るんだよ!そしてね、帰って来る時も、わざと巣から離れたところに降りてって、そこから歩いて巣に帰るんだよぉ♪
ヒバリはとても頭がよく、そして家族を守る優しい鳥なんだという事を10分近く熱弁された。上記に加え、敵から身を守るための巣作りもとても上手で、巣をつくる場所の選定能力も優れているんだという事も教えてくれた。
ヒバリを熱く語るその父の顔は、ああアルツハイマー型認知症だなあと受け入れざるを得ない何かがすこーし漂っていたけれど、難儀なことをしているわけでも何でもないので、ヒバリってすごいねぇ、、と付き合った。
トイレに行きたかったんだけど、娘は頑張って我慢した。
今のところ、父はアルツハイマー型認知症朗らかバージョンでいてくれる。だから唐突なヒバリ話も苦にすることなく聞けるのだろう。父のアルツハイマー型認知症の症状より、現在はるかに私の苦痛№1と化しているのは家事。体力消耗というより「病的な感じの身体」に仕上がっているので、ごはんの支度が部屋の片づけが、それはもう辛くて辛くてたまらないのである。
なのでどちらかというと今回のヒバリ話。一服の清涼剤なのである。でもどこから来た?ヒバリ。楽しかろうがそこは確認しておかないといけない。
でもトイレに行きたい。
オヤジ、ヒバリの凄さはわかった。で、あのヒバリってどのヒバリ?うちに鳥はいないぞ。犬しかいないぞ。
そんな私の言いように、仰天しながら父は答えた。

え??
お気づきでない??
トイレの中にいるじゃんヒバリ!!
たくさんいるよ!!
と言ってきた。

トイレの敷物??
え⁈
あれヒバリ??
親戚が母に手を合わせに来るというので、慌てて生協のカタログで購入したトイレマット。たぶんヒバリじゃないと思うよ。だってウィリアム・モリスだもの。いちご泥棒よ。
でも、父を侮ってはいけないかもしれない・・と、Googleで「ウィリアム・モリス いちご泥棒 鳥」と検索してみた。
モチーフとされている鳥はツグミだった。

「ヒバリ 画像」で検索をかけてみた。子のひいき目で見てもウィリアム・モリスのいちご泥棒に描かれている鳥はヒバリではない。「ツグミ 画像」で検索して出てきた実写版のツグミのほうが、はるかにウィリアム・モリスが描いた鳥に酷似している。
父、ツグミだよ。残念だけどヒバリじゃないよ。でもまあ、うちのトイレにいる鳥はヒバリでよかろう。嬉しそうにヒバリの生態を語る父。それをツグミだと訂正してまで過ごす日々はいらない。
それよりも、そのトイレマットの柄の中に鳥を見つけて「よっしゃ話題出来た!!」と話しかけてきた父を受け入れよう。
ただヒバリの生態は調べていない。

ヒバリはねえ、敵から見つからないように、巣から歩いて少し離れて、そこからポーンと飛ぶんだよ。そーやってたまごを守るんだよ!そしてね、帰って来る時も、わざと巣から離れたところに降りてって、そこから歩いて巣に帰るんだよぉ♪
という父の語るヒバリが我が家の正解。私の残された人生の中に、どこかの誰かにヒバリの生態を説明するタイミングなんて、きっと来やしない。
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